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「口に関するアンケート」 背筋先生・押見修造先生 インタビュー

実写映画も絶賛公開中の背筋先生による話題作『口に関するアンケート』が、押見修造先生を漫画に迎えてコミカライズされ、そして今月、早くもコミックスが発売! 刊行を記念して、両先生に本企画の経緯や意図、そして執筆のこだわりについて伺った!!

 

※インタビューは作品内容に触れています。結末のネタバレはありませんが、本編を全話読み終えてからご覧になることをお勧めします。

 

理想のタッグでコミカライズが実現!

 

――本作のコミカライズが決まった際の印象をお聞かせください。

 

背筋先生(以下、背筋

私は元々、押見先生の大ファンなんです。ずっと作品を拝読してきましたが、押見先生に対して、ご自身の世界観を大切にオリジナル作品を描かれる方という印象がありました。だから原作ものを引き受けていただけたことが驚きで、そして感無量でもありましたね。

 

押見修造先生(以下、押見

私も背筋先生の作品は存じ上げていて、カクヨムで『近畿地方のある場所について』が話題になった頃に読んだのですが、滅茶苦茶怖かったです。『口に関するアンケート』も書店のレジの横で見かけて気になって買っていたので、今回のことはご縁を感じていました。しかも背筋先生のリクエストでご連絡をいただいたとか。それはとても光栄でしたし、また自分としても面白い作品になる直観があったので、迷うことなく引き受けさせていただきました。

 

――コミカライズの際、お二人でどのような相談をされましたか?

 

背筋

事前に編集部を通じてすり合わせをしましたが、私からは杏や各キャラクターが、それぞれどんな人物かをお伝えしました。確か押見先生に杏について質問されたとき、私は杏はキャラクターではなく舞台装置として認識していました。人物としてのキャラクターは五人で、杏は透明な存在みたいな感覚でした。なので「からっぽの女の子です」とお伝えしたら、意外にも押見先生は「それは仕立て甲斐がありそう」と仰っていたそうですね。

様々な視点から語られる杏は、日常と怪異を橋渡しする重要な存在だ。


押見

小説だと確かに杏は抽象的な存在で、だからこそ味わいや怖さがあるのですが、漫画だとどうしてもビジュアルが固まって一人の人間になってしまいます。そこで背筋先生からの「からっぽ」という言葉を受けて、杏のバックグラウンドを直接描くのではなく、何かしら滲ませるようにしたらいいと考えました。

髪が長いのは原作で書かれているので、あとはどんな女子大生にするのか。軽い感じの子にするのか、何か秘めた感じにするのか…今の形が自分としてはしっくりきています。「からっぽ」は「精神がからっぽ=自己認識がからっぽ」と自分なりに変換して、それを抱えたキャラクターにしました。今まで描いてきたキャラクターとも通じるので、それが取っ掛かりにもなりましたね。

 

――お二人とも「少年ジャンプ+」に初登場ですが、今回の企画で期待したこと・目標としたことがあればお聞かせください。

 

背筋

読者の方々にとってはこの原作と押見先生の作画、そして「少年ジャンプ+」に載るということで、少し意外に思われるかもしれません。押見先生が描かれた漫画は素晴らしい完成度なので、どれだけの反響になるのか期待しています。とはいえ私としては単純に、押見先生に描いていただけて、それが多くの方に読んでもらえるだけで嬉しいです。

 

押見

これまでジャンプから遠いところで描いてきたので(笑)、「まさか自分がジャンプに載るとは」と、テンションが上がりました。ご新規の読者さんにお目にかかれるチャンスだと思っています。あと、並み居るジャンプ作品の中に、敢えて自分のような異物を放り込むことも面白いのかな、と。だからジャンプは意識せず、自分の持ち味をぶつけました。

 

――最初の作画が上がった際の、お二人の感想をお聞かせください。

 

背筋

作画前にラフ原稿を見せていただいたのですが、その時点で「もうこれ、完成では!?」と思うくらい、カッコよくて美しくておぞましかった。そこから上がってきた第一話の原稿は、世界観がさらにブラッシュアップされて、ますます怖い作品になっていました。単純にいち読者として楽しんでいましたね。

 

押見

原作の謎めいた雰囲気や違和感が魅力なので、それを漫画にどう落とし込むかを大切にしたつもりです。ラフに入る前の段階では、例えば登場人物の顔を描かず匿名っぽい見せ方も考えていましたが、結果として今の形にしました。背筋先生に気に入っていただけるかにかかっていましたが、受け入れていただけて大変光栄です。

また初めての原作ものということで、これまでのように自己を見つめて考えていることを描くのではなく、いかにこの作品を面白くするか、演出に集中していました。

導入でキャラクター描写を敢えて薄めることで、読者は物語に集中できる。

実は高難度!? ホラー演出の創意工夫

 

――漫画本編で特に印象に残っている場面があればお聞かせください。

 

背筋

全体的に杏の描写が心に残りましたし、そのおかげで物語の深みも増しましたね。各話の冒頭に杏の場面が入りますが、そこで「面白い話をしてよ」みたいな、杏もどこか空虚さを自覚しているような、愁いを帯びた諦めを感じさせるキャラクターになっていました。これは押見先生に料理していただいた、漫画ならではの演出です。これがあるから、のちの恐怖シーンが一段も二段もおぞましさを増してきます。「これぞ押見先生の作品だ!」と強く思わされました。

 

押見

特に悩んだシーンとして、セミの声をどう描くかがありました。原作には読んでいるだけでセミの幻聴が聞こえてきそうな怖さがあって、漫画でどう表現するか。そのまま描き文字で「ミーンミーン」と見せたら台無しだし、セミの姿もあまり前面に出さない方がいい。だったらいっそ抽象的な表現が良いのでは…と、あの形になりました。ちなみにあの見開きにはセミの羽の模様(翅脈)のイメージを描き込んで、サブリミナルみたいな効果を狙ってみました(笑)。

描き文字や絵そのものに頼らず、画面演出でセミの騒音を表現する。


背筋

それ、初めて知りました(笑)。

 

押見

元々、漫画でホラーを描くのは難しいと思っているんです。漫画はすべて作家が描くものだから、映像のように意図しないものが映り込む怖さがなくて、下手すると作りものっぽさが出てしまいます。

 漫画での怖さの表現とは、描いている作家が本当におかしいと思える絵とか、描いている側の狂気が出るといいのでは…と思っています。自分が本当におかしくなることは難しいですが(笑)、読者にそう思われるような演出を模索したつもりです。

 

――アンケートの最後で、各キャラの顔が徐々に歪んでいくところもそれですか?

 

押見

そうです。おかしい印象を与えるため、日々自分の顔をドローイングして練習していたんです。今作でそれを出してみました。

 

怪異を経験し、証言者の日常も壊れていってしまい…。


背筋

素人目線で恐縮ですが、ホラー漫画で難しいと思うのは、ページ数が限られていることです。紙の雑誌なら誌面が決まっているし、ウェブ媒体でも読者がストレスなく読み切れる一話分って、ある程度決まっていますよね。漫画はその限られた中で起承転結をつけなければいけないし、文章よりも即効性を求められます。

 でもホラーは本筋と関係のない余計なものを描くことによって、本筋の恐怖を醸成していると思うんですよ。お化けが出るだけだと怖くありませんが、そこに至るまでをじっとりと描写すると、そのお化けが怖くなります。そのペース配分は、昨今の漫画もそうですが、エンタメ性と相性が悪いのかも知れません。なぜなら見せ場に至るまでが長いから。

ホラーで活躍されている漫画家さんは、そこを上手く攻略されていますよね。関係のない部分を楽しませつつ、何かが起こることを予感させて、一番怖いところをある種の読者のご褒美にするという。描写というよりも構成の腕前というか、すごく難しいことをやられていますね。

 押見先生は『血の轍』『惡の華』といった、心霊系の怖さだけではなく、人間の恐ろしさも描かれる作家さんだと思っていたのですが、その見せ方が今作でも発揮されていましたね。本当に感服しました。

 

押見

自分は感覚的というか、主人公が主観として捉えていること――見ているものや、覚える違和感とか――をその世界に落とし込むことが、強度が高い表現だと思っているんです。今回、背筋先生からお話をいただいた時、その表現の強度をホラーに転換して欲しいということでは、と思ったんです。

 今まで読者を怖がらせようというより、自分の思っていることや抱えている感情を代弁させるために漫画を描いてきました。そしてホラーには、世界を「異化」させるというか、主観が歪んで別のものに見える怖さがあります。それは今まで描いてきた、主人公の内面を歪ませて変容する様を見せることと共通なのでは、と感じたんです。

 

――今作は横幅いっぱいを使った段組みや、過去と現在で枠線が異なるなど、コマ割りも特徴的です。この形式の意図があればお聞かせください。

 

押見

ストーリー漫画のような、コマを細かく割った演出は再現ドラマっぽくて合わないと思って。それよりも生々しいニュアンスを出したかった。大きさが揃ったコマが続くことによって、淡々と説明されている感じを出そうとしました。

 

背筋

押見先生が主観を大事に描かれているところが、コマ割りからも出ていますよね。

臨場感って、カメラと登場人物の視点が一緒で、画面と視点が同期することで表現されることが多いです。今作では客観と主観が同時に描かれている感じがして、内面描写にも臨場感があるというか。ちょっとおかしな言い方ですが、あたかも主人公の回想なのに、それが自分の視点のように再生される感じがします。先ほどのセミの紋様を忍ばせるとか、細やかな漫画の技法を積み重ねて空気感を醸成されているんですね。

証言者の話が、いつの間にか読者自身の体験のように視点がすり替わっていく。



――今作は全4話で完結しましたが、集中連載を終えての感想をお聞かせください。

 

背筋

私は上がってきたものを「すごい!」と読んでいただけなので、「大変楽しませていただきました!」という感想です(笑)。押見先生は作画から編集さんとのやりとりまで、ずっと大変だったとは思いますが…。

 

押見

背筋先生に納得いただけるものを作りたいというのが一番にあったので、楽しんでいただけて嬉しいです(笑)。私としても、今まで描いたことがない作品だったので楽しかった。漫画の作り方の実験というか、現時点での自分の技法の集大成となったというか、色々な練習も活かせてよかったと思います。

 

 

「分からない」から魅入られる!

 

――ホラー作品を作られる際、特に意識していることがあればお聞かせください。

 

背筋

「書くところ」と「書かないところ」のメリハリをつけることだと思います。特に文章の場合、怪異を細かく書けば書くほど、説明過多になって想像の余地を奪い、恐怖を奪ってしまいます。書き過ぎないことを意識しています。

逆に何かが起きている状況の描写は、精緻にすることで臨場感につながります。周囲では臨場感を出しつつも、怪異に関してはピントがぼやけているという、アンビバレントな状況を作ることができたら怖いと思ってもらえます。

怪異に至る状況を細かく語ることでイメージが膨らみ、この後の恐怖がさらに高まる。


押見

あまりロジカルに考えられる人間ではないので、特にルールとして決めていることはありません。ただ、自分は読者の記憶や感情の再生装置だと思って描いているところがあります。自分が描いたものを読むと、読者自身が身に覚えのある怖さを再生してしまうというか。そうすると自分と関係のないお話の中の怖さより、一段深い恐怖を感じてもらえるのでは、と思っています。

 

――ホラー作品の魅力は何だと思いますか?

 

背筋

分かりません。物心ついた頃から好きだったので、その根本を伝える言葉が見つかりません(笑)。ただ、言葉遊びではありませんが「分からないから好き」というのもあると思います。分からないからお化けや怪談は怖いし、分からないから好奇心を刺激される。それと同時に畏れや救いも感じているのでは、と自分では分析しています。

 

押見

僕も子供の頃からホラーやオカルトは好きでしたが、「正体が分からないものに、日常が異化される」ところでしょうか。本当に幽霊が存在していたら、自分が拠り所とする現実が揺らぎ、世界が瓦解してしまう…そして自分の中に、それを求めているところがあるのかもしれません。

怪異を経験した者たちの世界は異化し、決して元には戻らない…。



――特にお気に入りのホラー作品があればお聞かせください。

 

背筋

『不安の種』(中山昌亮)という漫画がすごく好きです。短いページ数で空気感が完成されているんですよ。有名過ぎますが『富江』(伊藤潤二)や日野日出志先生の作品全般も好きです。最近だと『光が死んだ夏』(モクモクれん)も。絵が美しくてある種のジュブナイルでありつつ、それでいて心底怖い描写もあって。

読んで「自分が書くならこうしよう」みたいに考えることもありますが、基本的には単なるホラー好きとして楽しんでいます。

 

押見

私も伊藤潤二先生が大好きです。あと最近だと、金風呂タロウさんの『Suburban Hell 郊外地獄』がすごかった。まず絵が怖いし、何か描いてはいけないものを描いている感じがするんですよ。「少年ジャンプ+」読者にお勧めするには少々ハードコアですが(笑)。

 私はどうしても絵を描くことに温かみが出てしまうので、それが抑えられた絵は本当に怖いです。そういった絵は、フランシス・ベーコン(イギリスの画家)に通じる怖さだと思っています。

 

――今回のコミカライズ版『口に関するアンケート』を制作したことによって、作家として新たな発見や収穫があればお聞かせください。

 

背筋

自分が書いた原作が漫画家さんの手にかかると、こういう風に面白さの質が変わって出力されるんだ、ということが知れて勉強になりました。そしてそれ以上に、昔から好きだった押見先生に描いていただけて、嬉しい気持ちが大きいです。こういう機会をいただけたことも作家の醍醐味です。作家になれてよかった(笑)。

 

押見

初めて原作ものを描かせていただいたのですが、これまで描いてきた私小説的な作品と大分異なり、ちゃんとした漫画家らしい仕事ができたと思っています(笑)。もっと怖い絵や演出も追求しようと思ったし、すごい個人的なことですが、自分の子供にも読ませられる作品ができたという嬉しさもあります。

 

――それでは最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

 

背筋

今回のコミカライズでは、漫画ならではの魅力が存分に出力されています。原作で想像していた恐怖が、想像を超えた形として描かれているので、ぜひ皆さん、読んで慄いてください。

 

押見

原作の持ち味や魅力を損なわず、いかに漫画で生々しいホラーを見せられるか頑張りました。その成果をぜひ見届けて欲しいです。

 



 

 

 

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