「どんな戦場だろうが、僕ら色に塗り潰す」ジャンプで育ったフースーヤが語るマンガ愛と、ふたりの現在地

「少年ジャンプ+」に掲載されている連載作品(※)は、好きな1ページをTシャツにプリントして購入することができます。そこでマンガ好きな4組の著名人に「Tシャツにしたい1ページ」をセレクトいただき、Tシャツを作ってみました。ページを選んだ理由とともに、ご自身のマンガ遍歴や、好きな作品についてもお話をおうかがいします。
今回登場いただくのは芸人・フースーヤのおふたり。高校の同級生が組んだコンビは、今年で結成10年目。昨年の「NHK上方漫才コンテスト」に続き、今年3月の「第14回ytv漫才新人賞決定戦」を制してますます勢いに乗るおふたりには「今のフースーヤを表す1ページ」をテーマにページを選んでいただきました。果たして選んだ作品とは、そしてその理由とは……?

※2017年12月4日以降に「週刊少年ジャンプ」または「少年ジャンプ+」で公開された話のみ。また、対象期間内の公開話でも一部対象外となっている作品あり。

芸人

フースーヤ

ふーすーや

2016年結成、吉本興業所属。
左)田中 ショータイム 1993年生まれ 兵庫県神戸市出身。
右)谷口 理(たにぐちおさむ) 1993年生まれ 兵庫県神戸市出身。

 

フースーヤの「週刊少年ジャンプ」愛

――谷口さんは幼少期からの「週刊少年ジャンプ」愛読者と伺っているのですが、どんな経緯で読むようになったんですか?

谷口:父が手塚治虫先生の作品が大好きで、昔から家にマンガがたくさんあったんです。僕の理(おさむ)って名前も、実は手塚先生が由来なんですよ。「(週刊少年)ジャンプ」は6歳上の兄の影響で小学生の頃から読むようになりました。中学、高校くらいからは自分で買うようになって、今に至ります。

――それから今まで欠かさず本誌を購入されているんですよね。なぜ途切れることがなかったのでしょうか。

谷口:それはね、ずっと面白いからなんですよ。「友情」「努力」「勝利」の三大原則はもちろんのこと、読者の願望に応えてくれるところが好きです。読者の願いが、作者を通してキャラクターに直接届いてる気がする。だからいつも「ありがとう!」って気持ちになります。

田中:実際、いつもめっちゃ声出しながら読んでるもんな。

谷口:そう。声出ちゃう。

――フースーヤのおふたりは谷口さんが熱心なジャンプ愛読者とお伺いしていますが、田中さんも「週刊少年ジャンプ」は読まれているんですか?

田中:もちろん僕も読んでますよ! 『NARUTO』(岸本斉史/集英社)、『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平/集英社)、『呪術廻戦』(芥見下々/集英社)、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)とかは全部読んでますし、アニメも好きです。谷口の愛がすごすぎるだけで、僕もジャンプ大好きですから!

 

 

――今回選んでいただいたページがTシャツになりましたが、実物をご覧になってみて、いかがですか?

谷口:このサービスのことは知っていたんですけど、どのページもめっちゃいいから、Tシャツにするページをずっと選び切れなくて。でも実物を見たらめっちゃ感動して、もっと気軽に作ってみれば良かったと思いました!

田中:僕はマンガやアニメをファッションに取り入れるのがめっちゃ好きなんですよ。一見ハードル高そうに見えるかもしれないけど、実は簡単でパッとおしゃれに見える。むしろハードルが低いんで、日常的に着てるんです。だから僕もこのサービスでTシャツを作ってみたいなと思いました。

 

フースーヤを表す『火ノ丸相撲』の名場面

――今回は、身長に恵まれなかった力士・火ノ丸(ひのまる)が仲間と共に奮闘するマンガ『火ノ丸相撲』(川田/集英社)からページを選んでいただきました。まずは、第187番「刃皇と童子切安綱」の該当ページについて解説をお願いします。

谷口:『火ノ丸相撲』はそもそも名言の宝庫すぎるんですよ。

田中:そうなんや。この場面、めっちゃ良さそうやな。

 

『火ノ丸相撲』(©川田/集英社)
『火ノ丸相撲』(©川田/集英社)

 

谷口:ええやろ!? 力士はそれぞれに得意な技とかがあんねんけど、この童子切(どうじぎり)はオールマイティな天才型!力士としての技量だけじゃなくファンサービスとかもすごくて、この場面の「誰がどんな手で来ようとも、それ以上の相撲で制圧する。見せ場なんて与えへん」っていう言葉は、そういう童子切のあり方を表してんねん。

田中:オールマイティって、言うたら俺らと一緒やもんな。

谷口:そう! それに、寄席とかにはいろんな先輩がいるけど、僕らとしてはやっぱり僕らのことだけを覚えて帰ってほしい。だからこの童子切の気持ちとまんま同じやねん。

田中:先輩がボケても俺らのボケで塗りつぶす、と。

谷口:そうそうそう! 目立ってなんぼの職業なんでね。ライブだろうが、テレビだろうが、「フースーヤってコンビ面白かったな」「名前覚えたわ」ってなってもらうのが仕事やから。ひな壇は戦場なんてよく言いますけど、どんな戦場であろうが僕ら色に塗りつぶしていこうよって気持ちで、このページを選びました。

田中:すごい良いな! カッコいいわ。今もそうだし、これからの俺らもずっとこのページそのものって感じやな。

 

 

――さらに、第227番「刃皇と冴ノ山」からも選んでいただきました。

谷口:右側の力士は、火ノ丸の兄弟子の冴ノ山(さえのやま)。柴木山部屋っていう同じとこに所属してて、部屋は芸人でいう事務所みたいなもんやな。言うたら同じ事務所の先輩やねん。

 

『火ノ丸相撲』(©川田/集英社)
『火ノ丸相撲』(©川田/集英社)

 

田中:なるほどな。

谷口:火ノ丸が闇堕ちというか、壁にぶち当たる時期があって。仲間とかみんな励ましたりとかすんねんけど、冴ノ山はなんも言われへんねん。自分が横綱になれてないのとか、悩んでるのもあるし。そんな兄弟子が何か言っても重みがないというか。

田中:そうやなあ。

谷口:お笑いの世界でも、「何を言うか」以上にそれを「誰が言うか」がめっちゃ大事やからさ。何かを成し遂げたからこそ言えることがあるし、結果を出したかどうかで言葉の重みが変わってくる。だから冴ノ山も、自分が兄弟子としてできることは、戦ってその背中を見せることだと思ったわけよ。

田中:「背中で語る」って、時代遅れのように見えてやっぱりカッコいいよな。

谷口:冴ノ山はずっと横綱になれなくて、周りからも「お呼びじゃない」とか「誰も期待してない」とか言われるんやけど、それでも「大相撲の『横綱』になるんです。引き下がれん理由ならこれで十分でしょう!!」って言って、本当に勝つ。

 

 

田中:エグいな!

谷口:刃皇(じんおう)っていう、むっちゃ強い相手をブワーッと倒すのよ。刃皇はそもそも冴ノ山なんて眼中になかったのに、勝つのよ。それがこの場面。しかもな、さっきの冴ノ山の言葉は……かつて火ノ丸が高校生のとき、初対面の冴ノ山に言った言葉やねん。

田中:ちょっと待ってくれ……アツすぎる……。

――田中さん、目が赤くなってます。

田中:(涙ぐみながら)谷口の解説を聞いただけで、もう26巻まで読んだ気持ちになってます。

谷口:僕らも「『M-1グランプリ』でチャンピオンになる」って夢がありますけど、「フースーヤの漫才は漫才じゃない」とか周りからいろいろ言われるんですよ。でもふたりでチャンピオンになると決めた。それが引き下がれん理由です。ほんま、それだけですよ。だからこのページを選びました。

 

 

火ノ丸相撲 作品を読む

『SAKAMOTO DAYS』で感じる「中二病のかっこよさ」

――続いて、多種多様な殺し屋が互いの命を狙うアクション作品『SAKAMOTO DAYS』(鈴木祐斗/集英社)の第46話「ツいてないね」からもページを選んでいただきました。

谷口:この南雲くんは殺し道具が十徳ナイフみたいなタイプで、6つの武器が出てくんねん。僕らでいえば「ギャグ、漫才、コント、フリートーク……今日はどれで笑い死にたい?」って感じやな。意外となんでもできるんやぞっていう。

 

『SAKAMOTO DAYS』(©鈴木祐斗/集英社)
『SAKAMOTO DAYS』(©鈴木祐斗/集英社)

 

田中:なるほどな。漫才だけちゃうぞ、と。単独ライブはギャグなし漫才とかコントもやってるし。

谷口:そうそう。ほんで、『SAKAMOTO DAYS』はバトルがすごいねん。アクションだけで言ったら『ドラゴンボール』(鳥山明/集英社)や『ONE PIECE』とはまた違うベクトルのてっぺんというか。映画観てるみたいな感覚になんねん。

田中:前に俺らのYouTubeでも解説してたな。

 

 

谷口:実写だとできそうもないあり得ん場面を、めちゃくちゃカッコよく描くのがうますぎる。電車で戦うときも、車両の結合部分にある扉の中で戦うねんけど、扉の中の視点で描くのかと思いきや……優先席からの視点でバトルを描くねん。

田中:ええ、カッコよ!

谷口:電車からホームへ敵を吹っ飛ばして、最終的に倒した敵を改札の扉にバンッて叩きつけるんやけど、それで終わりじゃないねん。坂本が改札にICカードをピッてして、扉が開いた拍子に敵が倒れて戦いが終わるんよ。

田中:そんなめちゃくちゃして、ちゃんとお金支払うんや。おもろ。なんか中二病な場面やな。

谷口:それがええんよな。結局、中二病ってカッコええねん。

 

 

SAKAMOTO DAYS 作品を読む

人生のベストマンガと、マンガみたいなフースーヤの逆転

――マンガのエッセンスや展開などが、普段のネタ作りに影響を与えることはありますか?

田中:単語とかは知らず知らずのうちに影響を受けてるかもしれませんね。

谷口:展開とかも、無意識のうちに入ってるのかも。僕らはやっぱり馬鹿馬鹿しさを大事にしたいから、そういうところは影響を受けているかもしれないです。

田中:俺らの漫才で、「おふだでお尻拭いたらお尻から安倍晴明が出てくる」みたいな展開とかあるしな。

谷口:テンポの良さも大事にしてるから、そういうのもマンガに近いところがあるかもしれへん。

田中:もっとマンガみたいな漫才作りたいもんな。

 

 

――おふたりの人生に影響を与えたマンガベスト3を挙げるとしたらなんですか?

谷口:まずはやっぱり『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)ですね。これはもう、嘘つけないです!ベタかもしれないけど、言い訳できないくらい一番読んでる。ずっと続いてて、ずっと面白くて。一番長く何を楽しんでるかって言ったらやっぱり『ONE PIECE』は外せない。

次は、『ダイの大冒険』(三条陸、稲田浩司/集英社)。絶対勝てへんような強い敵が出てきても諦めずに立ち向かっていくのはもちろんのこと、周りの兵士とかも奮い立つところが好きなんです。人生の壁にぶつかったとき、自分にも相方がおるし、周りに助けを求めながら諦めずに立ち向かって勝つことができる。そういうことを学んだのがこの作品ですね。

最後は『僕のヒーローアカデミア』。オールマイトが出てきたときに、「マンガ史上一番好きなキャラや!!!」って思ったんですよ。印象的なのは、オールマイトとオール・フォー・ワンの戦いですね。

どの作品にも共通しているのは、いかに自分が不利だろうが関係なく歯食いしばって立ち向かうところ。そういう登場人物がいるマンガが好きだし、そういう作品が多いからこそジャンプが好きなんだと思います。

 

 

田中:俺は、まずは『NARUTO』ですね。仲間のために命を賭けて努力して、大きな夢を諦めない。谷口が言った、弱かった主人公が仲間と共に高みを目指していく最たる作品が『NARUTO』だと思うんですよ。

次はジャンプマンガじゃないんですけど、『金色のガッシュ!!』(雷句誠/小学館)。「最終的に魔界に帰る」という強制別れエンドが決まってるってすごいシステムだし、ほんまにずっと涙なしでは読まれへん。仲間を信じる力、信じられる力、そういう絆がやっぱり一番強いって感じられる作品です。

最後は、『いちご100%』(河下水希/集英社)。僕の青春のバイブルと言っても過言ではないです。大人になってからまた全巻揃えて読み直したくらい、大好きですね。男はみんなこのマンガで青春を知ったし、甘酸っぱさを知ったし、女性がどんな存在かを知りましたから。友達から恋愛相談をされたときも「真中はこう言ってた」とか「西野はたぶんこうやから」とか、作品を通して話してました。

 

 

――フースーヤとしてのこれまでの活動の中で、マンガのように逆境を乗り越えたエピソードはありますか?

谷口:芸歴1年目のときに出た、フジテレビの『新しい波24』って番組ですね。ネタをテレビでやること自体が初めてだったし、周りは先輩ばかりで、しかも東京。スタッフさんも含め知らない人ばかりやったんですよ。

田中:めちゃくちゃ覚えてるわ。

谷口:ビッグチャンスやし、本番ギリギリまで廊下で50音ギャグの練習してたのも鮮明に覚えてるよな。俺がギャグ飛ばした(忘れた)のも。

田中:そうそう、覚えてる! 「50音の中から好きな1文字を指定されて、その文字から始まるギャグを言う」というので「む」を指定されたんですけど、そこから谷口が「むー、むー……」しか言わなくなって! 頭が真っ白になった谷口は、あらかじめ準備してたのとは違う言葉を言ったんです。とりあえず俺がその後に「ヨイショ!」で締めたらあたかも準備してたギャグみたいになった。そうか、「ヨイショ!」さえつければなんでもいけるんやなって気づきました。(笑)

谷口:番組は終わっちゃいましたけど、1年目でオーディションに受かってビッグチャンスを掴んだって意味では、逆境を乗り越えましたね。

 

 

田中:あとは、『M-1グランプリ2021』準々決勝。僕らに対する周りの反応って結成からずっとけっこう辛辣な感じやったんです。でも結成4年目くらいから、徐々に「フースーヤ面白くない?」「前より進化してる」とか言ってもらえるようになってきて。
それで『M-1グランプリ2021』で準々決勝に進んで、そこでブワーッとウケたんですよ。結果は敗退しちゃったんですけど、ネタの評判がネットでめちゃくちゃ広がったんです。

谷口:Twitter(現X)のトレンドとか入ってな。

田中:そうそう。しかもとある番組収録の合間にフジモンさん(FUJIWARA・藤本敏史さん)が「めっちゃおもろかったな!」ってわざわざ言いに来てくださったりとかもして。その年から、僕らに対する世間の目が完全に変わったんですよ。

谷口:あれはかなりデカかった!

田中:『M-1グランプリ』っていうラスボスに一矢報いた感覚というか、風穴開けた感じがしたよな。「フースーヤ」っていうジャンルを刻めたんちゃうかなって。

谷口:しゃべくり漫才、コント漫才とかいろいろあるけど、たとえばトム・ブラウンさんみたいな漫才もあって、そういう細分化したジャンルのひとつにはなれた感じがしたよな。

 

 

――最後に、フースーヤとしての現在の目標を教えてください。

田中:これは、せーので言いますか。せーの……

田中谷口:『M-1グランプリ』

田中:優勝!

谷口:準優勝!

田中:いや、確かにバッテリィズが準優勝で売れまくってるけども!

谷口:オードリーさんとかもそうやしさ、準優勝が売れるみたいなとこあるやん。

田中:すみません、ここカットで! 今コンビが違う方向に向いちゃってるんで!

谷口:またいつか取材していただくときまでに、話し合っておきます!

 

 

 

取材・執筆:鈴木梢 撮影:是永日和 ヘアメイク:米尾太一・安本さらら スタイリスト:伊藤良輔 ページデザイン:前田定則 編集:春田知子(株式会社ツドイ) 制作アシスタント:原リドワン(株式会社ツドイ)

「#ジャンプラT作ってみた」次回は5/16(金)、オモコロライター・かまどさんのインタビューを公開予定です。

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※2017年12月4日以降に「週刊少年ジャンプ」または「少年ジャンプ+」で公開された話のみ。また、対象期間内の公開話でも一部対象外となっている作品あり。

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