「少年ジャンプ+」に掲載されている連載作品(※)から、好きなページでTシャツが作れる「少年ジャンプ+TシャツSHOP」。この企画「#ジャンプラT作ってみた」では、マンガ好きな4組の著名人に「Tシャツにしたい1ページ」をセレクトいただき、実際にTシャツを作ってもらいました。
まず一人目に登場いただくのは、フリーアナウンサー・俳優の宇垣美里さん。子どもの頃からマンガに親しみ、今ではマンガの連載コラムも執筆するほどのマンガフリークです。
そんな宇垣さんは「少年ジャンプ+」の人気マンガ『ふつうの軽音部』のとあるページを選びました。「ジャンプラTで意気投合した人と友だちになれたらいいですよね」という宇垣さんならではのこだわりとは?
※2017年12月4日以降に「週刊少年ジャンプ」または「少年ジャンプ+」で公開された話のみ。また、対象期間内の公開話でも一部対象外となっている作品あり。
![]()
フリーアナウンサー・俳優
宇垣 美里
うがき・みさと
1991年生まれ 兵庫県神戸市出身。2019年3月にTBSを退社後、現在はドラマやラジオ出演、執筆業と幅広く活躍している。週刊文春、女子SPA!などで漫画や映画のコラムを連載中。著書に『今日もマンガを読んでいる』(文藝春秋)など。
──今回、宇垣さんには『ふつうの軽音部』を選んでいただきジャンプラTを制作しました。実際に着てみていかがですか?
着心地もいいですし、やっぱりかわいいです。『ふつうの軽音部』って、ストーリーの面白さはもちろん、多彩でリアルなキャラクター、物語の運び方とかが、マンガとしてめちゃめちゃうまいんです。でもこうやって「どのページをTシャツにしようかな」って読み返してみると、そもそもデザインとしてオシャレなカットが多いことに気づきました。本当にどのページも捨てがたくて……。それであえて、マンガ本編じゃないサービスカットを選んでみました。カラープリントだし、めちゃめちゃかわいいんですよね。
──ジャンプラTは、扉絵やおまけページから選べるのもいいですね。
そうなんです! このカットは、みんなの立ち姿からキャラクターが見えてくるのもいいなって思って選びました。全然ジャンル違うやんって4人なんですけど、それぞれに思惑がありながらも、狭い軽音学部のなかで出会って、一緒に活動しているのが好きで。
──たしかに、同じクラスになったからといって仲良くなるタイプの4人ではないですね。
そうそう。鳩野は自意識過剰だけど音楽にはまっすぐ。桃ちゃんは陽キャなんだけど、過去にバンドの人間関係で失敗したときのことを引きずっている。厘(りん)さんは、狂言回しでありながら、高校生とは思えない策士。彩目ちゃんは、元カレにひと泡吹かせたい。みんな一筋縄ではいかないキャラクターで、思惑も一致してなくて、「運命的に出会った」みたいな綺麗なストーリーに回収できないんですよね。でも、部活でバンド組むなんてそんなもんっていうか。その身も蓋もなさが懐かしいっていうか。あと、このスカート丈にすごくシンパシーを感じるんです。
──マンガやアニメでよく見る「女子のスカート丈」からすると長いですよね。
関西の高校生はスカートの丈が長いんです。私は神戸だったんですけど、もっと長くてくるぶしくらいでした。大阪の人は膝下くらいで、ちょうど『ふつうの軽音部」のみんなと同じかな。そんなスカート丈の長い関西にいたから、はじめて東京に来たときは「みんな寒ないん?」って思ってました(笑)。
──『ふつうの軽音部』は、いつから読まれていましたか?
1巻が出たタイミングで読んでハマりました。本当に「ふつう」なところが新鮮なんですよね。ものすごく才能がある人たちの話でもなく、ほのぼのしているわけでもなく、どこにでもあるような「ふつうの軽音部」が舞台になっている。あと、みんな非常に愚かしいんですよ。
──愚か、ですか。
学生って、非常に狭い世界のなかで、そこだけしかないって必死になって、一生懸命悩んでケンカして、愚かだなって思うんです。でも誰もそんな自分からは逃れられない。
──愚かでいられるのは青春の特権ですね。
うんうん。そういう意味で自分の学生時代をもヒリヒリと追体験できるマンガですね。若い頃の見境のない衝動も描かれていて、そこもたまらないんです。鳩野ちゃんが「この私をバカにしたすべての人間を 絶対に殺してやるという強い気持ちをもってがんばる!!」って言うシーンがあって、それにすごく共感する。私は吹奏楽部だったんですけど、当時は「言葉にはならない、持て余した衝動を音楽で昇華できてよかった」って思っていたので。
あと、バンドメンバーの厘さんが、鳩野を崇拝している気持ちもめっちゃわかる。若い頃に心酔したミュージシャンって、ほとんど信仰の対象みたいなものじゃないですか。
──私も身に覚えがあります。あるミュージシャンに夢中になって、その音楽と歌詞とパフォーマンスで、自分の価値観が塗り替えられてしまう経験ですよね。
まさにそれが、私にとってはたとえば「凛として時雨」で、今でも崇拝しているんです。だから、厘さんの鳩野を崇める感じってすごくよくわかるんですよね。
──厘は、鳩野の歌声に惚れこんで、鳩野を押し上げるために軽音部を暗躍するキャラクターです。
私も吹奏楽部で「この先輩が一番うまいのに、なんでソロもらえないんだよ」ってイライラしていたことがありました。厘さんみたいに器用じゃないから、部内で暗躍して先輩を押し上げることはできなかったですけど(笑)。
──マンガと同じくらい音楽も好きな宇垣さんに、『ふつうの軽音部』はうってつけですね。
作中に登場する音楽もめちゃめちゃわかるんです。私は1991年生まれなんですけど、「この世代を狙い撃ちにしているのかな?」って思うくらいの選曲で。当時、みんながAKB48やあゆに夢中だった頃に、敢えてNUMBER GIRLとかを聴いて、「みんなとは違う音楽を知ってる自分が好き」みたいなタイプだったから。鳩野の自意識の感じも「わかる...…!」って共感しちゃいますね(笑)。このマンガを読んでいる友だちとも「懐かしいよね、次はどのバンドの曲が出てくるかな?」「GO!GO!7188出ないかな」とかって盛り上がってます(笑)。
──他にも印象的なシーンはありましたか?
たくさんあったんですけど、一番は「たまき(鳩野の先輩)がイヤフォンを耳に入れるシーン」です。バンドが解散して、親友が学校を辞めて、根も葉もない噂が広まり、淡い思いを抱いていた先輩の結婚がわかって……なにもかもがうまくいかなくなって、自分で自分を責めちゃうんですよね。「そんなだからあんたはずっと ひとりぼっちなんだよ」って。そこでおもむろにサンボマスターの「輝きだして走ってく」を聴く。そこの眼差しが本当に好きで。
──いいシーンですね。いつもの明るいたまき先輩とは違って、瞳に冷徹な決意が宿っている。
そうなんですよ。基本的にいつもヘラヘラしてて、それが処世術になってる人だけど、このシーンで印象が変わるんです。しかもこの感じ、私も「はー! クソが!」って思いながら、ひとりで音楽を聴くことがあるからめっちゃ分かるんです。ロックを聴いていると周りの雑音が聞こえなくなって、戦える。
こうやって音楽に救われた人ってたくさんいるけど、そういうときって、たいていひとりじゃないですか。たまきがこんな心境になっていたことも、誰も知らない。そんなふうに、誰にも気づかれない孤独も描いているところが、『ふつうの軽音部』という作品の厚みだと思うんです
作品を読む ![]()
──『ふつうの軽音部』の他にもTシャツを作っていただきました。まずは『シバつき物件』(大森えす)ですが、犬好きにはたまらない作品ですね。
これはヤバいです。私も犬を飼っているので、たびたび号泣してます。犬たちが幸せになって成仏するたびに泣くし、むうちゃんがデレを見せた瞬間もときめきつつ、「成仏してほしくないな......」って気持ちで、感情が忙しいんですよ。
──とあるマンションに、地縛霊ならぬ柴(犬)の霊が憑いているというストーリーです。しかもみんな、人間の言葉が喋れるという。
主人公の氷ちゃんの部屋に憑いたむうちゃんだけじゃなくて、他の部屋のシバちゃんたちも超かわいくて、「ここ、住みたいな」って思いながら読んでます。
──生前イジメられていたせいで、「幸せを感じて満足すると成仏してしまう」、という設定が切ないんですよね。
うん。でも、動物って私たちより寿命が短いから、いつかは見送ることになる可能性が高いわけじゃないですか。フィクションで現実にはありえない話なんだけど、そういう意味ではすごくリアルで真に迫るんですよね。だから読むたびに「はあ……」って切なくなって、うちの犬を呼んでぎゅってします。「50歳まで生きろよ」って言うんだけど、うるさいなって顔される(笑)。
──Tシャツに選んだページは、むうちゃんが好きなYouTubeアニメのワンシーンですね。マンガ内マンガのようなページです。
『シバつき物件』も良いシーンがありすぎて本当に迷いました。むうちゃんの表情もいいし、他の部屋のシバたちがたくさん描かれたページもすごく魅力的で。大森先生ってシバの描き分けが本当に上手なんですよね。でも、最終的にはこのページにしました。「おともだちって楽しいね」っていうメッセージがまず最高じゃないですか。これはもう、友だちの子どもに会うときに着たいですね。
作品を読む ![]()
──次は『アスラの沙汰』(宇乃花空樹)ですが、『シバつき物件』とは対照的です。母親の教えを守り、善行を積もうとする少年・アスラが「地獄の扉を開く鍵」を手に入れ、鬼の力を使って悪人をこらしめていく作品です。
まだ1巻が出たばかりなのに、もうすでにものすごい展開ですよね。誰でも地獄送りにできるアスラくんの盲目さが怖くて。「人を呪わば穴二つ」って言いますけど、きっと彼自身にも報いがあるだろうし、これからどうなるのか気になっています。
──今回宇垣さんがTシャツに選んだページもパンチがあります。
宇乃花先生は絵がうますぎて、すごく悩みました。この鬼の絵、めっちゃ良くないですか?カッコよすぎる。地獄送りになる人間によって、鬼の姿が違うので、どの鬼にするかもすごく迷って。特別イラストの「地獄百鬼」で描かれた、頭が馬になっている鬼もかっこいいんですよ。
──日常のシーンのマンガ的な描写と、鬼が出てくる決めのカットが対照的で、そのメリハリが非常に効果的ですね。
鬼の絵は和風のテイスト、日本画っぽさもちょっとあって素敵なんですよね。これは大きな絵で見たいなと思って、Tシャツにした節もあります。このTシャツを着るんだったら、メイクは強めにしたいかな。アイラインもしっかり引きたいです。
作品を読む ![]()
──『週刊少年ジャンプ』の作品は読んでいましたか?
ずっと読んでますよ。『NARUTO -ナルト-』(岸本斉史、集英社)や、『ONE PIECE』(尾田栄一郎、集英社)は世代です。あと『銀魂』(空知英秋、集英社)は外せないかな。
──宇垣さんはこれまでにも度々『銀魂』には相当影響を受けた、とお話されていますよね。
だいたいのオタクはそうなんじゃないかな!(笑)私だけじゃないと思う。周りのオタク女子はほとんどハマっていました。
──『銀魂』に心をつかまれたのはなんでだと思いますか。
いろいろあるけど、まずやっぱり、キャラクターが魅力的なところかな。私はベタですけど、銀さんの生き様がすっごくかっこいいなと思っていて。ダサかろうが、小汚かろうが、絶対に諦めないんです。彼の“ザ・かっこいい”とは違う、汗臭いかっこよさは自分の指針になっています。
あと、空知英秋先生って、絵を描かなくてもやっていけるんじゃないかってくらい文才がすごくて。たぶん、私の文章もかなり影響を受けている気がします。
──宇垣さんを語るうえで『銀魂』は避けて通れないマンガなんですね。
実は今回も、「チーズ蒸しパン」をTシャツにできないかなって思ったくらいで。
──「チーズ蒸しパン」??
空知先生が「ホントめんどくせーな漫画描くのって っていうかもう生きることがめんどくさい チーズ蒸しパンになりたい」って描いてたことがあって。マンガ本編じゃないのでTシャツにするのは諦めましたけど(笑)。空知先生って自画像がゴリラなんですけど、そのゴリラが横たわって「めんどくさい...…」って言ってるのが面白くて。え、ちょっとまって……。
──どうしたんですか?
今、話しててふと気づいたんですけど、私、自分のことよく「ゴリラ」って言うんですよ。それは、メンタルが強くてものすごく体力があるからだったんですけど、空知先生の自画像に自分をどっかで重ねてたのかもしれないです。まさかそこまで『銀魂』に影響を受けてたなんて、ちょっと照れくさいですけど(笑)。
──改めて「少年ジャンプ+TシャツSHOP」を使われてみて、いかがでしたか。
「好きな作品の好きなページをTシャツにできる」って、なかなかないサービスなので楽しかったです。これまでは既存のグッズの中から選ぶしかなかったけど、自分だけのオリジナルを作れるのって、ありがたいというか、ちょっと特別ですよね。
最近は描き込みのしっかりした作品も多いので、Tシャツという大画面で見られるのもいいですよね。ただ、一回使ったら沼かも。あれもこれもって、いっぱい作っちゃうと思います(笑)。
──Tシャツなんて何枚あっても困らないですから、ぜひ作ってください(笑)。
あと、何気なく着ていたら「えっ、それってさ!」って会話のきっかけになりそうなのもいいかも。それこそ『ふつうの軽音部』でも、鳩野とクラスメイトの矢賀ちゃんが仲良くなったのって、カバンにつけてた「弥勒菩薩のストラップ」と「北条家の家紋柄のペンケース」」がきっかけだったじゃないですか。
──1巻のおまけで描かれたエピソードですね。鳩野の弥勒菩薩に気づいた矢賀ちゃんが、共通の趣味を持ってることに気づいて、あえてペンケースを持っていくという。
あれって、友だちのなり方として一番理想だと思うんです。言葉にせずとも、愛用しているアイテムでお互いの趣味が伝わって仲良くなるって最高じゃないですか。そんなふうに、友だちにならないとしても、電車で見かけてアイコンタクトするだけでも楽しいだろうなぁ〜。
──これまでバンドTシャツが果たしてきた役目は、ジャンプラTでもできるのかもしれませんね。
そうかも。バンドTを見て、「えっ! 私もそのバンド好き!」って話が始まるみたいに、ジャンプラTをきっかけに「えっ! そのマンガ読んでるの!?」っていう会話で繋がれたらいいですよね。アイテムで伝えるほうが自分の言葉でアピールするよりも早いし、濃密だし。ジャンプラTで意気投合した人と友だちになれたら素敵ですね!
取材・執筆:安里和哲 撮影:芝山健太 ヘアメイク:松田美穂 スタイリスト:滝沢真奈 ページデザイン:前田定則 編集:野路学(株式会社ツドイ)
「#ジャンプラT作ってみた」次回は5/2(金)、麻雀プロの瑞原明奈さんのインタビューを公開予定です。
「少年ジャンプ+」で閲覧できる連載作品※は、好きな1ページをTシャツまたはトートバッグにプリントして購入することができます。
Tシャツをつくってみる※2017年12月4日以降に「週刊少年ジャンプ」または「少年ジャンプ+」で公開された話のみ。また、対象期間内の公開話でも一部対象外となっている作品あり。