マンガ『DEATH NOTE』に出てくる探偵のLはメチャクチャかっこいい。圧倒的な推理力で、名前が書かれると人が死んでしまうノート「デスノート」の秘密にせまってゆく。
Lの座り方はすごく変わっている。ひざを抱えるような通称「L座り」だ。Lは「一般的な座り方をすると推理力が40%減です」と言っている。L座りをすることが必要なのだ。
しかし……。これって姿勢がメチャクチャ悪くないだろうか? 僕の本業は指圧師である。普段はお客さんから姿勢の相談を受ける立場だ。あの姿勢はぜったいにすすめられない。
しかし、僕が理解していないだけで、意外と物を考えるのにはいいのかもしれない。なにしろあのLが採用しているのだ。
というわけでLになって(Lファンの皆さんすいません)実験してみたいと思う。L座りは実際に快適なのだろうか?
『DEATH NOTE』の中でLは「東応大学」に入学している。きっとあの姿勢で大学の授業を受けていたに違いない。
今回、
明治大学政治経済学部
の植田麦先生に協力いただき、105分の講義をしてもらえることになった。
授業時間について少し説明させてほしい。明治大学の通常の講義時間は100分だ。しかしLが入学した東応大学の授業時間はきっと105分であろう(東京大学がそうだ)ということで、105分の授業をしてもらう。
ともかく、この時間いっぱいL座りで授業を受けてみたい。
まずは入室
講義室に入っていく。Lは歩いているときの姿勢もものすごく悪い。
席に着こうか。
……ちょっとまて。講義室のイスと机が固定されていて、Lの座り方が全くできないじゃないか。どんなにがんばっても膝と太ももがはみ出してしまう。
えっ。どうしよう……。ぜんぜんダメだな……。せっかく本物の授業をしてもらえるのに、いきなり企画倒れになっちゃうの?
講師用の固定されていないイスを持ってきた。これでやっとL座りができるぞ! 早くもいやな汗をじっとりかいている。
本気の講義が行われる
講義テーマは植田先生の専門である『古事記』だ。日本最古の神話である『古事記』がテキストとしてどのような機能を持っているか、という内容を話してくれることになっている。
この部分は『DEATH NOTE』と特に関係がない。植田先生に「L座りをしながら講義を聴きたいんですが……」と言ったら、用意してくれたテーマだ。
先生、やる気まんまんである。こちらとしてもL座りで頭が働くかを試したいので、少しむずかしいくらいがちょうどいい。
講義開始。先生が口を開く。
植田「『神話』とは何か? 一口に『神話』と言っても、その含意するところは人によって異なります。つまり、『神話』は揺れ幅のある語であり、学ぶには『神話』とは何かということを規定しなければなりません」
…………信じられない。頭に全くなにも入ってこないし、何にも考えられない! 「L座りで頭が働くようになるのか」という疑問の答えは速攻で出てしまった!
この姿勢、実はものすごくつらいのだ。両足への負担がハンパない。
企画を変更します
「L座りで頭が働くようになるのか」という疑問の結論は「ただつらいだけで頭は働かない」とわかってしまった。ここからは「L座りで大学の講義を最後まで聴いていられるのか」という企画にシフトチェンジしたい。
ちゃんと講義内容を理解するためにメガネをかけさせてもらった。どんどんLから遠ざかっていってすいません。
20分経過。足の先が圧迫されて血が通らなくなってきた。冷たくなっているのがよくわかる。さらに極端に背中を曲げていることで胃が圧迫されてきた。気分が悪い。なぜか手ピンと伸びてしまったが、意味はないです。
26分経過。頭がほんのりと痛い……! ちょ、ちょっとこれ無理だわ。一回足を伸ばさせてもらう。
講義はあと81分もある。このままで終わるわけにはいかない……。一回屈伸運動などを入れつつ、再度トライ。
一度伸ばすとかなり回復してきた。これなら最後まで授業を受けられるか……。
1時間経過。やっぱりつらい!
人間は普通に座っていても、立っているときにくらべて140%ほどの負荷が背骨にかかるという。さらに座った状態で20度前傾姿勢になると背骨への負荷は185%になる。L座りは明らかに20度以上の前傾になっている。
「L、大丈夫ですか? なんか大変そうですが……」と先生。
「ぜんぜん大丈夫なんで、気にせず続けてください~」といいながらストレッチする僕。
再び座る。ここで先ほどからずっと撮影していたカメラマンが「なんか足の色がヘンですね。無理しないでくださいね」と言いだした。
そうかな? どっちにしろ、あと少しだし、大丈夫でしょ。……そう思っていたんだけれども。
授業終了残り5分。急に気分が悪くなり、イスに座っていられなくなってしまった。床にあおむけになったのだが、床って超気持ちいいのな。単なる固い平面だと思っていて悪かった。床最高だよ。
結局、L座りでは講義時間耐えられなかった。そういえば、LはL座りのままで眠るって言っていたっけ。信じられない。この格好で眠るのだったら、フルマラソン中に眠る方がまだぜんぜんラクだと思う。
Lはインドア派のように見えて、かなりの肉体派なのではないだろうか。そうとう足腰を鍛えていないとこの姿勢は無理である。
そういえば、Lはテニスが抜群に強かった。テニスのラリーをくり返すのだって、足腰の力が必要である。あの伏線がこんなところで解決されるとは……。
こういう学生っていますか?
講義をしてくれた植田麦先生に話を聞いてみた。
斎藤「こういう座り方をしている学生っていますか?」
植田「いないです。講義用の教室は机とイスが固定されています。斎藤さんが最初試したように、そもそも無理なんですよ」
斎藤「そうでした。もし可能で、こういう学生いたらどうします? 注意します?」
植田「ゼミを行う少人数用の教室だったら机とイスが離れているんですよね。そっちだったら可能ですが……。こういう姿勢の学生いたらどうしようかな。ものすごくびっくりはしますね。でも『考え事をするのに、この方が集中できるんです』って言われたら、しょうがないかも」
ダメではないらしい。Lのような天才が入学してきても、植田先生の講義を受けている限りは排除されることはない。
授業はいい姿勢で受けましょう
Lでない凡人の我々はやはり生理学的に「いい姿勢」で授業を受ける必要があるだろう。
講義を聴くときはイスに深く座り、背もたれに背中をつける。あごを引き、教壇を見る。このときに耳と肩が一直線上に並んでいるように心がけると、首や肩への負担が減る。
ノートをとるときは、ペンを持っている方と逆の側を少し前に出し、体重をかける。これで筆記がだいぶラクになるはずだ。
授業の終わりにやっておきたいストレッチ
また、長時間大学の授業を受けた後にやっておきたいストレッチも紹介しよう。図のように
イスの背もたれを持ちながら、身体全部を使って、後ろに振り向く。コツは両肩をできるだけ水平に保つことと、イスの脚に自分の足を引っかけることだ。
イスに長時間座っていると、胴体が真っ直ぐに固定されてしまう。そのためにこうしてひねる刺激を与えておくとよい。腰痛やストレスの緩和になるだろう。
今回の実験でもわかったように、大学生の皆さんは、Lのマネをしないようにしていただきたい。って、する人いないだろうけれども!
取材協力
明治大学
植田麦先生