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「全作必ず編集が読む。広告費は100%還元!」ジャンプ編集部が新アプリに手間と時間をかけるワケ

ジャンプのイベントで公開された、とある資料


こんにちは。先日東京・渋谷で開催されたイベント「ジャンプのミライ」のイベント設計を担当しました、株式会社ツドイの今井雄紀と申します。



「ジャンプのミライ」は、少年ジャンプ編集部が主催したトークイベントで、「少年ジャンプの未来の形をご紹介すると共に、事業協創につながるような法人・個人の皆様と意見交換をさせていただきたい」という志のもと、開催されました。そのお手伝いをしたのが、弊社です。


当日はおかげさまで大盛況でした。



現在、「ジャンプ+」編集部さんからこんな風にイベントのお仕事をいただいているわたしですが、つい1年ほど前までは、出版社でマンガを含む書籍編集の仕事をしていました。


そんなわたしから見て、当日公開された「ジャンプルーキー」に関する資料はたいへん興味深いものでした。


編集のM山さんに「これ見たい人いっぱいいますよ! 特に他社の編集者!」と進言したところ特別に許可をいただくことができたので、ここであらためて、当日の発表内容をできるだけ忠実にレポートさせていただきます!


以下、編集M山さんおよび、その後に続いた運営担当今村さんのプレゼンをほぼそのまま再現した文章に、ところどころわたしの心のツッコミを入れたものとなります。

ジャンプ編集部が全投稿作品を読むアプリ



M山:集英社のM山と申します。本日は宜しくお願いします。



M山:現在、ジャンプ編集部内の「ジャンプ+担当」というセクション、ジャンプのデジタル面を担当する班におります。もちろんマンガの編集の仕事がメインなのですが、同時に色々なデジタルサービスの立ち上げに携わってきました。本日はその中でも、ジャンプルーキーのお話をします。



M山:ジャンプルーキーは2014年、少年ジャンプ+というマンガ雑誌アプリが始まったのと同時にできた、WEB上でマンガを投稿・公開できるサービスです。

特徴として、ジャンプ編集部が全投稿作品を読んでいるということが挙げられます。本当にすべて読んでいます。


今井:新人の作品は「下読み」といって、バイトの人などがまず読んで、よいものだけを編集部が読むというパターンも多いです。ジャンプの本気を感じます


で、いいなと思うところがあったら編集者がバッジをつけていきます。これは例えば「絵がすごい上手だな」と思ったら「画力」のバッジをつけるとか、オリジナリティがあるなと思ったらそのバッジをつけることで、投稿者も評価された点がわかるし、読者も読みどころがわかると、そういう仕組みです。

さらに、有望だと思った作家さんには、どんどんスカウトの連絡をしています。もちろん週刊少年ジャンプ本誌やジャンプ+に載るチャンスもあります。




M山:なぜ「ジャンプルーキー」を始めたか。まず前提として、これは言うまでもないかもしれないのですが、マンガの編集者というのは才能を感じる作家さんとの出会いを求めている人種でして、その中でも特に少年ジャンプ編集部は新人作家さんとの出会いをめちゃくちゃ熱望している編集部です。

今ジャンプで連載している作家さんも、「初めての連載がジャンプだった」という人が8割と、大多数になっています。



M山:かつて……というか今もですが、少年ジャンプが新人作家さんと出会う方法は大きく分けて2つありました。

1つは持ち込みの電話です。もう1つは地方に住まれている作家さんなどに多いのですが、毎月マンガ賞をやっていますので、そこへ郵送で応募してもらうという方法です。

実際、冨樫義博先生や松井優征先生には持ち込みの電話をきっかけに。鳥山明先生や尾田栄一郎先生には、マンガ賞への投稿をきっかけに編集部はお会いしています。


今井:ある日突然『暗殺教室』や『ONE PIECE』が編集部にやってくるってすごいですよね。最初に読んだ人の興奮たるや……想像がつきません


こんなすごい実績もありますので、とにかくすぐ電話を取るというのが昔っからのジャンプ編集部の習慣です

ありがたいことに、「ジャンプで連載」を目標にしてくださっている新人作家さんは非常に多く、新人発掘の手段としてこのふたつがベストと言える状況でした。



M山:しかし時代は変化しました。今さら言うまでもありませんが、まず読み手の変化として、パソコンやスマホでエンターテインメントを楽しむ人が増えました。

一方、描き手の環境も変わっています。デジタルツールで執筆する作家さんが増え、それに比例して、WEB上で面白いマンガを公開する作家さんも増えました。

WEBで公開することが容易になり、また、WEBに掲載することで、ジャンプに載るよりたくさんの人に読んでもらうことも可能となりました。


今井:『ワンパンマン』はまさにそんな作品であると、M山さんにお聞きしたことがあります



M山:この変化の中で感じたことはですね、何より出会いたい新人作家さんがなかなかジャンプに来てくれなくなっちゃうんじゃないかと。

その結果、ジャンプに新人さんが集まって、読者が集まって、人気のマンガを毎年生み出し続けて……という、そういうサイクルがもしかして崩れてしまうんじゃないかと思いました。

そういう不安感がある一方で、やりようによっては新人作家さんと出会う機会をもっと増やせるかもしれない。また、読者と作家さんがより幸せになるシステムを生むチャンスなのかもしれないと、前向きな期待感も持ちました。




M山:そこで、新たな新人獲得手段として、「少年ジャンプルーキー」を3年半前に始めました。今日はその結果をお伝えできればと思います。。


ジャンプコミックス刊行作家18名輩出!




M山:これは2014年12月から2018年4月までの数字です。

「週刊少年ジャンプ」に掲載された人が、掲載確定している作家さんを含めて4名。ジャンプコミックスを刊行している作家さんが18名。「ジャンプ+」で連載している作家さんが26名となっています。

投稿してもすぐデビューできるわけではなく、ネームの打ち合わせをしたりとか、時間は非常にかかりますので、3年半でこれだけたくさんの作家さんがデビューできたというのはすごく驚くというか、想像以上だという風に僕らは感じています。

あと読み切り掲載に至った方もたくさんいらっしゃいました。「最強ジャンプ」とか「ジャンプ+」「週刊少年ジャンプ」の増刊などに載った作家さんは50人以上にのぼりました。

全体の投稿作品数は13,000以上。累計の投稿の話数は44,000。投稿者数も3,400人以上と本当にありがたい数字です。PVは2億8,000万でした。



M山:ここまでの、3年半の感想としては、大満足です。まず投稿作品の数が非常に多くて、恐らくこれほど多くの投稿が集まるマンガ賞や編集部は、他には存在しないんじゃないかと思います。今もコンスタントに、毎月300~400作品が投稿されています。デビュー作家さんの数も予想以上で、即戦力に近い力を持った作家さんも多くいらっしゃいました。

大満足ではあるのですが、予想を大きく超えたがために、欲が出てきました。


今井:ジャンプ編集部、貪欲……!



M山:全てのマンガ家さんと出会えうようになりたい。やっぱり色んな他のマンガの投稿サービスを見ていてルーキーには投稿していないけれども面白いマンガっていうのはたくさんあります。

本当はそういう作家さんともつながったり、つながらないにしてもジャンプの広場でぜひ公開してほしいなと。そういう想いがありました。

また、そうすることが、作家さんと、その面白いマンガを待っている読者への貢献にもなるはずだと考えました。



M山:そこで、アプリです。なぜアプリか。これまで「少年ジャンプルーキー」はWEBサイトだけで展開されるサービスであり、持ち込みおよびマンガ賞の延長として設計したサービスでした。



M山:結果として、投稿者に占める「商業誌でのデビューを目指す作家さん」の割合が非常に大きくなっています。実際、投稿者に「なぜ少年ジャンプルーキーに投稿しましたか」とアンケートをとると、約40%の方から「週刊少年ジャンプ」および「ジャンプ+」で連載したいからという回答がありました。

逆に言えば、これに当てはまらない、明確に商業誌掲載を目指しているわけではないWEBマンガ家さんは、ルーキーへ投稿してくださっていないのではないかと、そういう風に思いました。


今井:ここ、元他社編集者として「そこも全部ジャンプがさらってしまうんか……」という、ちょっとした絶望を覚えました。本当に貪欲!


そこで、読み手にとって居心地がよく、作家さんも直接収益を上げられる可能性をもったプラットフォームを作ろう。そのためにアプリを出そうと決めたのです。




M山:インディーズマンガのアプリはたくさんありますが、まだ「定番」と言えるものはないのではないか。そう考えてリリースするアプリ版ジャンプルーキーが目指すのは、「ユーザー投稿型WEBマンガアプリの圧倒的な決定版」です。


広告収益は100%還元! 「ジャンプ」っぽくないマンガも歓迎!


M山:このアプリには、5つの特徴があります。



M山:1つめは、広告の収益を100%描き手に還元する点です。投稿者の方にルーキーで自由に連載し、収入を得てほしいと思っています。

同時に、読者がひろく集まるオープンな場所でありたいという思いもありますので、特定のファンからの金銭支援ではなく、まずは広告収入の還元からと考えました。

なので読者が増えれば増えるほど金額も増えていきます。少しでも多くの描き手のみなさんが創作をしやすく、続けやすい環境を作りたいと、そういう風に考えています



M山:特徴の2つめはジャンプっぽくないマンガも大歓迎という点です。これまでの少年誌に加え、青年誌、少女・女性誌というジャンルを新しく作りました。サービス名もちょっと変えて、「少年」という言葉を取りました。どんなマンガでもウェルカムで、対象の読者も、年齢・性別問わず、全員という風に考えております。


今井:ジャンルも拡張してる! 欲が底なし!




M山:3つめは縦読みですね。スマホに最適化したアプリにするため、縦にスライドして読む方式にあえて限定しました。もちろんWEBTOON的な、comicoさんのマンガのような、そういう縦スクロールのマンガも非常に重要だと思っているので、大歓迎です。



M山:そしてアプリなので「通知」があります。読者も作家さんを追いやすくなっていますし、その反応がすぐに作家さんに伝わるようにしています。



M山:5つめ、これはリニューアル前と変わらないのですが、面白かったらもちろん、ジャンプに載るチャンスがあります。



M山:マンガ業界の危機が叫ばれる中で、ジャンプはマンガ家さんと読者にもっともっと尽くしたい、貢献したいと、そういう気持ちがあります。ジャンプルーキーのアプリはそういう想いを込めた、ジャンプによる新たなチャレンジというつもりで始めました。

以上、ご静聴ありがとうございます。


中傷コメントはほとんどなし


今井:M山さんのプレゼン後、続いて登壇されたのがネットコンプレックスの今村さんでした。ジャンプルーキーの運営担当として発表された、より詳細なデータも見応えたっぷりでしたので、こちらもシェアします


今村:先ほど月の投稿数が300~400というお話があったんですけれども、新規の投稿作品が月で平均して377作品。これは作品数ですので、例えば10話いっぺんに投稿されたものでも1作品としてカウントしています。

さらにその下が、ひと月あたりの平均の新規投稿者さんの数です。毎月、一度もジャンプルーキーに投稿したことのない新しい作家さんが、90人以上投稿してくださっていることになります。

続いて右側です。ルーキーの中でカテゴリーを選べるようにしています。「コメディ」と「ギャグ」が1番多くてその次に「ファンタジー」作品。こちら2つを足して大体半分。「ラブコメ」「ホラー」「ミステリー」が少なくなっています。



今村:続きまして編集部が作品に評価としてつける「バッジ」の分布です。1番多くついているのが「画力」で500以上。次が「オリジナリティー」についてですね。この2つで大体半数弱くらいになっています。

続きまして投稿作品の「縦読み」か「横読み」かの割合なんですけれども、80%以上と圧倒的に横読み作品が多いです。

閲覧者の使用端末の割合は、言うまでもなくスマートフォンの割合が圧倒的です。今後のジャンプルーキーアプリを「縦読み」のみにしたのは、この端末の事情が大きいです。スマホで読みやすいのは「縦読み」ですので。


今村:続きましてユーザーアンケートです。ルーキーでは年に1回、ユーザーさんに対してアンケートをとっていまして、その結果をいくつかご紹介したいと思います。

まず投稿ユーザーの男女比は男性が63%と多めです。年齢層は20代が合計45%と最大勢力となります。



今村:「ジャンプルーキーの悪いと思うところ」という項目について。こちらはまず、2016年のものからご紹介させてください。1年前のアンケートになるんですけども、圧倒的1位が、「コメント欄がない」でした。

コメント欄については開発段階から大きな議論になっていましたが、やはり「荒れる」懸念が拭いきれず、開始時の実装を見送った経緯がありました。中傷のようなものが出てくると、作家さんのモチベーションが下がってしまうと考えたためです。

ただ、これだけの要望があるのならそれに応えるべきだということで、2017年の9月に「応援コメント」として実装しました。



今村:その結果なんですけれども、こちらが心配するような荒らし行為などは、本当にびっくりするほど起きませんでした。ポジティブな感想で場が賑わっています。

アンケートでも、半数以上の方がコメント機能を支持してくださっており、ホッとしているところです。これを受けて、今回新しく作ったアプリでは、作家さんをフォローする機能を付与しました。



今村:2017年。コメント問題が解決したあとの「ジャンプルーキーの悪いと思うところ」アンケートの結果がこちらです。今度は「投稿しても収入が得られない」が1位になりました。今回のアプリはこの意見も汲んで、広告収益を還元する形になっております。

今村:私の方からご紹介するのは以上となりますけれど、今後のジャンプルーキーというサービスは皆さんのお声を取り入れながら、より良いサービスに育てていけたらなぁという風に思っております。どうもありがとうございます。


ジャンプの独占欲と社会貢献


ずいぶん長くなってしまいましたが、おふたりのプレゼン再現は以上です。


会場でこの話を聴いていて感じたのはジャンプの本気っぷりと独占欲の強さでした。


ジャンプが、今も昔もマンガの最高峰にいるのは変わりありません。それならば、もうちょっとあぐらをかいていてもいいもんじゃないか、それぐらいの方が他誌も「このスキに」とやる気が出て、結果的に漫画界が盛り上がるのではないかと思うのですが、そんな雰囲気は微塵もない、謙虚で危機感溢れる姿勢に恐ろしさすら感じました。ジャンプ編集部は、世に在るすべての才能を吸い上げるつもりです。


そうして独占を狙う姿勢にちょっとひいた一方で、ジャンプルーキーおよびジャンプペイント(ジャンプが作ったマンガ作成アプリ)のようなインフラを整え、貧富の差や居住地による投稿ハードルの高低をなくす努力はかけがえのないものだとも思いました。この地球に「ジャンプのおかげでマンガが描けている」という少年少女が、少なくない数いるはずで、それは本当に尊いことです。


ジャンプが種をまき、畑を耕して育てた才能たちが輝く未来を、いちファンとしても心待ちにしたいと思います。



今井雄紀(株式会社ツドイ)