少年ジャンプ+に受賞作掲載
「怪猫」永田暗治
あらすじ
亡くなった母親の借金を背負わされた少女は、ある日不思議な老婆と猫に出会い―
編集部講評
キャラクターの表情がよく描けていました。猫の特徴もわかりやすく、少女との同居生活がどんな帰結を迎えるのか興味を持って読み進められました。設定に不明瞭な箇所が散見されたので、次作以降はその点をしっかり詰めていくとより完成度の高い作品になっていくと思います。期待しております。
橋本悠先生講評
暗い漫画かなと不安になりながら読み進めましたが、ラストは素直に「よかった~」と思える漫画でした。
「話のこのへんでこういうシーンを挟むとグッときそう」のような直観がすでに身についていて、細部の粗さは感じるものの完成度は高いです。
これだけのページ数を母娘の宿命という一つのテーマできちんとまとめきっていて高い将来性を感じました。また次の大作を期待しています!
「正反対のナルキソス」金野利幸
あらすじ
美を愛する女が出会ったのは醜い美術家だった。正反対なようで似ているモノのお話。
編集部講評
演出力の高い作品でした。キャラの表情、仕草も自然で良かったです。キャラクターの内面の掘り下げが不足しており、オチに盛り上がりが欠けていた印象だったので、今後の課題にしてみて欲しいです。次回作も楽しみにしております。
橋本悠先生講評
非常に完成度の高い作品でした。とても読みやすく、技術的には言う事がありません。
特筆すべきはストーリーテリングで、比較的使い古されたモチーフの組み合わせにも関わらず、丁寧な描写の積み重ねによって、この作者にしか描けない漫画が生まれています。
技術的にはすでにプロフェッショナルなので、プロ漫画家を目指すのであれば、「誰の目にも魅力的なキャラやストーリー」を生み出したり、「自分にしかない表現のクセ」を獲得していったりしてほしいと思います。
「Bow!」夜久実良
あらすじ
真面目な高校生・木闇は、ある日突然、演劇部の紅野に「30万円で3回デートして」とお願いされ…?
編集部講評
絵やセリフにしっかり個性があり、すでに独自の世界観がある点は大きな強みかと思います。一方で感情の繋がりが読み取りづらいシーンが散見され、それがキャラへの共感を妨げている印象です。次作では、キャラの動機・行動理由の一つ一つを丁寧に描くことを意識しましょう。
橋本悠先生講評
絵と世界観はダントツで良かったです。いますぐこの絵と空気感で食べていける。そういうレベルです。
「空気感の魅力だけでファンを作れる作家」を目指せるポテンシャルを感じました。
一番気になったのはキャラ設定のリアリティでした。このヒロインがどれだけ宝塚に憧れているか、いかにその舞台に立ちたいか、そういうヒロインの「本気度」がわかる描写が欲しかったです。
「ゲームと小さな三銃士」高梨悠人
あらすじ
昔はゲームが大好きで、幼馴染3人でよく遊んでいた青山。社会に出てゲームから離れてしまった彼だが、最新作が出ると聞いて胸がざわつき…?
編集部講評
綺麗な構成で読後感も良く、一定のレベルに達している作品でした。ただ描かれる感情に既視感があり、そのキャラクター発の感情としての説得力が薄いように思えました。また画面の細部まで描き込まれており非常に良かったのですが、線がやや粗いので、より丁寧に、より強弱をつけられるように意識してみるとより画面に立体感が出るかと思います。
橋本悠先生講評
大風呂敷を広げず、身近な題材で一つ話をまとめようとした点は良かったと思います。
少しずつ変化していく主人公の感情はとてもわかりやすく丁寧に描かれており、誤魔化さずに正面から漫画を描こうという気概に100点をあげたいです。
惜しかったのはやはり、「誰でも想像できる感情」の範囲に収まってしまったかな、という点です。「あなたにしか描けないゲームを通じた友情」のストーリー、またはそれが表れたセリフを見たかったな、と思います。
「どこでもキューブ」武藤凌平
あらすじ
ある日、大学生のタケトシは奇妙なルービックキューブを見つける。何気なく揃えてみると、一瞬でエジプトに飛ばされ…!?
編集部講評
キャラクターや小物、背景に至るまで丁寧な作劇が魅力的なSF作品。キャラクター同士の掛け合いもテンポ良く、非常に読みやすかったです。SFとしての演出やデザインにも拘りを感じるのですが、核となる設定自体に少し既視感を感じてしまいました。
橋本悠先生講評
「仕掛け」をたくさん配置しており、面白い漫画を描いてやろう!読者を楽しませてやろう!というプロ意識を一番感じた作品でした。
ただ設定が奇抜な分、描くのが難しい漫画になったと思います。キャラクターの行動規範に一貫性が乏しく、説明不足や描写不足も目立ちました。
ワープ装置がルービックキューブである意味にも、何か一工夫あるとさらに良かったです。
「寝相が悪い男」阪中博紀
あらすじ
寝相が悪いせいで、失敗を繰り返してきた寝屋川相汰。そんな彼が恋人と一夜を過ごす事になるのだが…!?
編集部講評
寝相が悪いという些細なネタで描き切った点や、コミカルに描きつつも良いお話としてまとめている点などが高評価でした。
ただ良くも悪くもワンアイディアなので、次回作での工夫を期待したいです。
橋本悠先生講評
非常に完成度の高いギャグ漫画でした。(いい意味で)普通に爆笑しながら読んでしまいました。
絵も可愛くて読みやすかったですし、絵柄と作風もマッチしていました。
ただ強いて何か言うとすればちょっと長かったです。現代漫画の感覚なら16pくらいでできそうな内容だったので、冗長なコマを詰めて密度を上げるか、34p描くならもう少し展開があっても良かったかもしれません。
- 「タカミヤ」輝嶋蚕
- 「感情スイッチ」棘原さんた
- 「天真のいうとおり」三奈戸琉葦
- 「ゾンビ保険」Korova
- 「のちに咲く花」髙橋穂
- 「タイトルなし」副田暁人
- 「鎖」サメジマドロロ
- 「天枷くんは天使らしい。」ニシオ
- 「包丁乙女と可哀想な英雄さん」八重田音也
若い投稿者の個性が光る回でした。自分が面白いと思うものをしっかり描ききっているとは感じますが、独りよがりになっている印象も。もう一段深堀りするだけで面白くなりそうと思える作品が多かったです。
『怪猫』はまだ粗削りですが、描きたいものが定まっていてしっかりと伝える表現力がありました。特にキャラの表情を含めた絵のうまさと、アクションなどにアイデアがあったところを評価しました。
「やってやるぞ!」という意欲を感じる漫画が揃っていて、非常に楽しめました。
また応募の際に書いたことも、意識してくれている人が多かったかな?と感じました。とてもレベルの高い漫画賞だったと思います。
今回最終候補まで残った皆さんに一つだけアドバイスをするとすれば「ストーリーの型を覚える」意識です。守るにしても裏切るにしても、これを覚えることは絶対に必要です。なぜなら大体の場合「読者のほうが沢山漫画を読んでる」からです。
読者が知っていたり無意識に予想していたりする「こういうジャンルの話なら大体こういう展開」という型を作者が共有していないと、読者は悪い意味で裏切られたり、話が全く頭に入ってこなかったりします。
ストーリーの1から10まで全部オリジナルはそもそも無理なので、オリジナリティがなくていいところは型に沿うことで説明を省略したり、大事なところで型を裏切って読者を驚かせたり、使い道は無限にあります。
沢山の漫画を読み、小説を読み、映画を観て、「百戦錬磨の読者たちと型を共有する」ことで、初めて読者を納得させる話を描く土台ができます。
沢山描くことも大事ですが、漫画を読んで泣いて笑って興奮したその思い出一つ一つ、そして覚えたストーリーの類型こそがあなたの武器になります。ぜひこれからも楽しんで読んで描いていってください。応援しています。
▶「少年ジャンプ+漫画賞 2023年冬期」
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