少年ジャンプ+に受賞作掲載

「ガンマン」佐藤衣ハ
あらすじ
銃を愛する余り、銃と一体化したガンマンの恋物語
編集部講評
絵や演出など、まだ粗削りですがレベルが高く、自分の描きたいものを原稿に乗せる情念のようなものを感じる作品でした。ただ、セリフが少なく、キャラ同士の掘り下げも浅いので、もう一歩物足りなさも感じます。大変才能を感じますので、たくさん作品を描いてレベルアップしていってください。今後の作品に期待しております。
クワハリ先生講評
画力が非常に高く、描き込まれた作画によって世界観を十分に表現できていて素晴らしいです!銃と一体化した主人公のデザインはインパクト抜群で、序盤から引き込まれます。戦闘シーンの構図もかっこいいです。ラストのコマも渋くて良いと思います。
主人公のレンブラントと銃のアシュリーの関係性をもっと深く描くと、より読者が物語に没入できる気がしました。自身の腕と一体化するほどの銃への愛を、より深く(あるいは気持ち悪く)描写するとキャラが立つのかなと…アシュリーが主人公に執着する理由に関するドラマも、もう少しあった方がいいのかなと思いました。
また、主人公が助けた女の子に関しても、もう少し内面を描写することで、主人公がアシュリーの願いを無視して女の子を助けたことに対する読者の共感が生まれる気がします。
絵の表現力がすばらしく、違うジャンルの作品を描いても面白くなりそうなので、色んな作品を読んでみたいなと思いました!

「ガゾウムゾウ」丸々三角
あらすじ
全てが絵の世界―。絵を具現化し街を壊す"アナーティスト"と秩序を守る清掃員たちの争いが続いていた…。
編集部講評
画力の基礎レベルが高く、絵を見ているだけで楽しめました。一方で情報説明が不足し、理解しづらい部分があります。特にバトルの戦闘システムや勝利条件は明示してほしかったです。キャラクターデザインとクリーチャーデザインは大きな武器になると思います。次回作を楽しみにしております。
クワハリ先生講評
全てが絵で作られた世界という舞台と、描いたものを具現化するアナーティストという設定がとても面白いです。その世界観を余すところなく表現できる画力が本当に素晴らしく、読んでいてただただ圧倒されました。
登場するキャラクターもみんな魅力的でした。主人公レオン・父親レオネル・父親が生み出した作品であるレモネードの三者の関係性が良いですね…
主人公のレオンは絵が下手だという短所はあるものの、最初から「この世界は絵じゃない」という答えを自分で見つけており、精神的・肉体的にかなり強い印象を受けました。個人的には、もう少しレオンの弱い部分や葛藤している部分を見せて、レモネードとの出会いによって成長するという展開にしても良いのかなと思いました!
この作品の世界観やキャラクターをさらに練り上げると、連載作品としてめちゃくちゃ面白いものになる気がします!!あなたの作ったファンタジックな世界をもっと味わいたいです!!

「ミジンコ採取に行こう!」田口ヒロト
あらすじ
いじめを受けている少女、みみ。ゆいはいじめが黙認されている罪悪感から、みみに誘われるままミジンコ採取に付き合うが――。
編集部講評
オリジナリティを強く感じる作品でした。短いページの中で、二人の関係性が的確に描かれています。脚本に起伏を作り、絵にも動きを出してあげるとさらに良い作品になるかと思います。もう少し長いページでの展開も見てみたくなりました。次回作を楽しみにしております。
クワハリ先生講評
絵柄に独特の魅力があり、それがキャラクターの魅力に繋がっているように思います。このキャラを描きたいという作者の意志が伝わってきてすごく良いです。(14ページのみみちゃんの笑顔、すごく良いですね…)
ストーリーに関しては展開が全然予想できず、大変興味を惹かれました。個人的な好みを言わせていただくと、会話劇であるならば二人の会話がゆいちゃんの語り→みみちゃんの語りの1ラリーで終わるのではなく、もう少し続けてほしかったです。また僕だけかもしれませんがラストが少々難解に感じました。
作品から独特の凄みを感じるので、次はもっとページ数の多い作品を読んでみたいです!!

「Beautiful morning with you」竹林成起
あらすじ
小さな島で暮らす二人。「教祖」の調査を頼まれたところから、二人の生活には暗雲が立ち込める…。
編集部講評
演出力・画力のレベルが高く、奥行きを感じさせる世界観設定も魅力的でした。表情の描写力も強みかと思います。視点・場面・時間の転換が多かったり、基本的な情報が過多だったりと、読みづらさを感じる面が多くあります。「読みやすさ」を強く意識し、次回作に挑戦しましょう。
クワハリ先生講評
決めゴマでの人物の表情がすばらしく、引き込まれました。(18ページのシロの笑顔、本当にすばらしいです!)不穏で悲しい雰囲気の作画が物語とマッチしていると思います。ラストシーンの朝日がばっちり決まっていて美しいです。
僕だけかもしれませんが、物語の流れが途中でわかりにくくなり、ストーリーを追うのが難しくなるように感じました。時系列の入れ替えやモノローグの挿入はドラマを引き立たせますが、読者を混乱させてしまう危険性もあるので、自分で少し野暮だと思うぐらい分かりやすく、読者フレンドリーな構成にしたほうが間口が広がる気がします。
島と本土の関係性や宗教団体の設定がやや過密なので、もっとシンプルな設定にしてクロとシロのドラマに焦点をあてた話にしてもよかったのかなと思いました!
尖った作家性をすごく感じたので、あえてもっと王道でシンプルな設定の作品を描いてみると、すごい傑作が生まれるかもしれません!!読みたいです!!

「糞餓鬼」清田世一
あらすじ
子供ばかり狙う連続殺人犯の老人に狙われた少年。絶体絶命のピンチで、お隣のお婆さんが急に現れて…
編集部講評
セリフや演出の細かい部分にアイデアが感じられ、自分が信じるかっこよさを描こうとする姿勢がとてもよかったです。絵の線やキャラの顔立ちがやや野暮ったく見えるので、今っぽい抜け感のある線や顔の造形を意識してみてください。次回作も期待しております。
クワハリ先生講評
不穏な雰囲気が漂う独特の絵柄が良いです。物語の構造がシンプルで、読んでいて何が描きたいのか分からないというストレスを感じず、スムーズに読むことができたのも良かったです。
主人公がかっこよくて惹きつけられます。ただ、戦う理由がもう少し明確に存在するほうが共感できるかもしれません。
敵キャラがそこまで子供を憎む動機がわかりにくいので、感情をもっと深く描写したほうがいいかもしれません。同情の余地の無いやられ役であっても、全く意味不明な思考回路の人間にするより、「こういう考え方する人現実にいるかも」と思わせるような描写を入れることで、より読者のヘイトを集められる気がします。
ラストシーンは絵的なインパクトはすごくあるのですが、展開が読めてしまったので、もうひとひねり何かがあると読者の心に残りやすいのかなと思いました!
チャレンジ精神と可能性をすごく感じる作品でした。色んな作品が読んでみたいです!!

「大きな地」宇鶴宙
あらすじ
「土喰い」に支配された世界。大地を取り戻すため、男は地上に降り立った。
編集部講評
シンプルで掴みやすい展開と、大きく思い切りのある画面構成が読みやすさに大きく寄与していました。キャラの好感度は高いものの掘り下げが足らず、やや既視感を覚えます。壮大な世界観ながら情報量・画面構成のバランスが良く、大変読みやすい作品でした。明るいキャラや前向きな展開など好感度の高い物語ではあるものの、同時に独自性の薄さも感じます。各要素のアイデアをさらに練り込み質を高め、他作品との差別化を図りましょう。次回作にも期待しております。
クワハリ先生講評
画面の作り方、コマ割り、セリフの入れ方などのテクニック的なものが高度でひたすら読みやすく、プロの漫画を読んでいるような気分になりました。世界観の提示のタイミングも上手く、序盤からワクワクさせられます。
個人的には展開にもうちょっと起伏があった方がよかったかなと思います。「お母さんは死んでいるんだろうな…」と思って読んでいたらすんなり登場して、「何かが起こる前フリなのかも…」と思ったら特に何も無かったことで少し肩透かしを感じました。必ずしもショッキングな展開を用意する必要は無いのですが、王道的な設定の作品だからこそ何かしらのサプライズを用意したほうがいいのかなと思います。この作品は画力もキャラクターも設定もすべてのレベルが高いので、そこに漫画好きを唸らせるようなひねりまで加わったらもうケチのつけようが無くなると思います。
47ページの主人公の絵が最高にすばらしいです。連載作品としても読みたいと思わせるレベルでした!!

「銃声」鮫稿千
あらすじ
引っ込み思案のリサコと、彼女をいつでも助けてくれたミツキ。ミツキの誘いで陸上部に入ったリサコは、やがて才能を開花させてゆき...
編集部講評
性格の異なる二人の関係性を丁寧に描いた作品でした。陸上競技のスターターというモチーフも新鮮に感じます。ストーリーの展開や二人の関係性自体はやや既視感のあるものでしたので、ぜひ次作は新しさのある関係性、驚きのある展開を目指してみてください。
クワハリ先生講評
絵柄とストーリーがとてもマッチしています。作者の方の誠実な人間性が伝わってくる作品でした。こういう衒いのない作品が今の時代に求められているのではないかと勝手に思っています。42ページの窓から外を見つめるミツキのカット、本当にすばらしいです。
淡々としたドラマが作品の良さだとは思うのですが、一方で淡々としすぎていて少し物足りなさも感じてしまいました。ミツキとリサコそれぞれが抱える葛藤は普遍的で、描き方次第でさらに深い感動を作れると思います。二人の感情を徹底的に深堀りすることで、より深いドラマになり得るのではないかという気がします。
個人的にすごく好きな作風なので、他の作品も読みたいと思いました!!

「地球姫」中嶋くるあ
あらすじ
宇宙の星々には、星を治める王がそれぞれ存在する。ある日「地球の王」が選びだされ、人々は自らの欲のため、彼女を利用し始める...
編集部講評
一般人がいきなり神として選ばれ、力を得たために歪んでいく過程を容赦なく描いたインパクトのある作品でした。話のスケールがどんどん大きくなり、そのままバッドエンド気味に完結するため、読後感がやや投げっぱなしに感じました。絵のブラッシュアップと併せて、読者の期待を満たす展開を描くことにも挑戦してみてください。

「ヒッチコック」おわかれ会
あらすじ
鳥の大群を見て思い出すのは、ある映画。その話をしたのは、とある秘密を持つクラスの高瀬さんだった。
編集部講評
セリフ選びに独自性・固有性があり、キャラに実感が伴っていました。表情や間で感情を伝える描写力も魅力的です。全体的に「主人公」の存在感・能動性が薄く、ドラマとしては物足りない印象を受けます。読後の満足感を高めるため、展開により起伏を持たせましょう。次回作にも期待しております。

「渡り鳥」池尻勇也
あらすじ
かつて本多忠勝に殺された男、喜多薪郎。現代に転生した薪郎は、忠勝の子孫とフェンシングで闘うことになり……。
編集部講評
線が生き生きしており、やりたいことが明確だったのが良かったです。気合の入っているコマとそうでないコマで画力がブレているのがやや気になりました。同じ絵を提供できるよう基礎的なレベルを上げていきましょう。アクションの画作りには強い迫力を感じました。今後の作品を楽しみにしております。
- 「月に咲いた影」橋本道郎
- 「時をかける妻」滑川玖
- 「TRASH HEAD」和田大輝
- 「しあわせのかたち」桜イチタ
- 「スプリングストレンジ」高木大輔
それぞれに課題はあるものの表情、アクション、台詞、クリーチャーの造形など応募作それぞれに今後武器となりうる個性を感じました。強みはそのままどんどんと伸ばしていって、読みづらさやキャラクターの強化、ストーリーの整理など弱い部分を補い読者の鑑賞に耐えうる強度をもった作品を目指してほしいです。どう読んでほしいのか、どう驚かせたいのか、どう思ってほしいのか、初めてあなたの作品を読む読者のことを想像してみてください。他者への想像力を働かせて、一段高い視座で自分の作品を捉えられれば作品をより良くできると思います。
お伝えしたいことが2つあります。ひとつは、ちゃんとした読切作品を完成させて賞に応募している時点でとてつもない偉業を成し遂げているということです。今回惜しくも最終候補に残らなかった方も同じで、全員がすごいです。若い頃の僕もそうでしたが、本気出したらいつでもすごいものが作れるんだけどね…的な雰囲気だけ出してる人は腐るほどいますが、実際に手を動かして自分の作品を完成させられる人間はほとんどいません。本当にすごいです。自分はすごい人間であるということを自覚して、どんどん漫画を描いていってほしいと思います。
もうひとつは、僕なんかが特別審査員のときの賞に応募してくれて本当にありがとうということです。こんなぽっと出の作家の言うことは無視して、自分の思うがままに漫画を描いてくれたら何よりです。もちろん他者に読んでもらいアドバイスを受けることで、クオリティが上がる可能性は高いです。僕も編集さんにネームを見てもらうことで、独りよがりでわかりにくくなっている部分などに気づけるのでいつも助かっています。ただ何より大切なことは、自分が面白いと思うものを表現し続けることだと思っています。(「続ける」というのが特に重要で特に難しいと感じます)これからの時代で何が評価されるのかは誰にも分かりません。柔軟に色んなものを取り入れつつも、自分の信じる面白さにはこだわり続けてください。僕も漫画描くのをなるべく続けるので、皆さんも一緒に続けてほしいです。おたがい頑張りましょう!!
今回読ませていただいた作品のことは忘れずにずっと覚えています。次回作が読めるのを楽しみに待っております!!
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