
「ボクの太陽(つき)」
ナオタロ
あらすじ
狼男の少年と、月から来た少女。「あなたはヒトとは違うから」と言われ続けた2人が月夜に出会う物語。
編集部講評
キャラクターの心情が丁寧に描かれており、ボーイミーツガールの王道展開ながらも新しさを感じました。設定、構成、演出のいずれも巧みで、完成度が高いです。ラスト、ヒロインの謎が明かされずに匂わせのままで終わってしまったので、読者が理解するための手がかりがもう少し欲しかったです。次回作にも期待しています。
大森えす先生講評
冒頭の掴みもよく、不思議な少女の正体が気になってどんどん先を読みたくなりました。イヌイくんもモブで終わるかと思いきや、後半のたたみかけで最終的には忘れ難い存在になっていました。各地の月伝承を凝縮した「月の住人」たちの世界観も魅力的で、物語を通じてタロウくんの中で「月」の捉え方が真逆に変化していく様子も美しかったです。短いページ数の中でこれだけのドラマを見せられる構成力の高さにも感銘をうけました。
P10〜12のどこかで、タロウくんが拒絶されるとわかっていながら、友人を連れ立って裏山に行った理由が示唆されると、さらにキャラへの共感性が高まるかもしれないなと思いました(例えば『本当の自分を受け入れてほしい』という無意識の願望や期待があったなど)。

「人生を変えた一殺」
一ノ瀬躍
あらすじ
元シリアルキラーが一堂に会する中、“人斬り・岡田剛蔵”は過去に過ごした弟との想い出を語りだす…。
編集部講評
導入で物語に引き込み、その後の展開もあまり見ないものになっている点が評価されました。ただ読者によっては、その展開の幅に戸惑いを感じることもありそうです。構成やドラマの作り方は上手なので、今後は魅力あるキャラで物語を構築していって欲しいです。
大森えす先生講評
冒頭の掴みから中盤のドラマ、そして終盤の手に汗握る展開とさらにオチに至るまで、大変面白かったです。冒頭の武器の持ち込みに関するやりとりも単純に楽しめるだけでなく、自然に伏線として効いてきたりと、構成力の高さも光っていました。特にラストは、絶妙なタイミングでスカッとさせてくれつつ、それを妄想に止めたことで「彼の覚悟と、それまでにしてきたことの重み」を考えさせる余韻となり、読後もしばらくこの作品のことが頭から離れませんでした。完成度が高いだけに、わずかに読み順を迷う箇所が惜しく感じられました。たとえばP6~7の枠線がない部分では、ナレーションボックスの背景にあるもやを少し伸ばして視線誘導の補助として利用したり、P12の2コマ目の吹き出し(『いや~』)を1コマ目にかけるなど、ほんの小さな工夫で迷いを防げると思います。

「雨と向日葵」
白田シド
あらすじ
「妖怪一族」の一員として忌み嫌われる涼雨。世界の全てに嫌気が差していた彼の前に、底抜けに明るい少女・向日葵が現れる―
編集部講評
キャラクターの表情や画面作りに、強いこだわりと熱量を感じる作品でした。キャラクターのギャップや好感度の高さも光ります。一方で、終盤の展開にはやや強引さを感じました。主人公達がどのように困難を乗り越えたのか、具体的な描写で明示できるとより満足度も上がるかと思います。また引きの構図も効果的に使い、より見やすい画面が作れると理想的です。
大森えす先生講評
躍動感と大胆さのある絵柄にくわえ、水や光などの空気感の演出がすばらしく、画面から瑞々しいキャラクターたちの雰囲気や世界観が伝わってきました。ひまりちゃんもアグレッシブでありながら押し付けがましさがなく、自然に元気をくれるキャラでとても好感をもちました。ネームのテンポも非常に心地よかったです。一方で、状況がややわかりにくい部分がありました。たとえばP7の3コマ目〜P8にかけては、二人の位置関係がわかるようなアングルにして、もう少し引きの構図にするなど、読者に伝わりやすい画角になっているかにも気をつけると良いかなと思います。
また、なぜ那津家がこんなに畏怖されているのか、なぜ雨四葩家が忌避されていながらも各家が積極的に家付き合いを継続しているかの背景も含め、もう少しだけ家同士の力関係が明確に見えると、キャラの行動に説得力が増しそうです。魅力的なキャラクターを描けるということはものすごい強みなので、そのキャラをより立たせる社会設定も練り込むと、より強固な武器になると思います!

「貢ごうよ!!闇金狂っ!!!」蠢合スミ
あらすじ
闇金で借金取りとして働くユウマの元に、「もっと貢ぎたい」という変わったOLがやってきて…!?
編集部講評
闇金の借金取りに恋をした女の子という組み合わせが面白く、特殊な状況ながらキャラ描写もコミカルで、好感度の高さも魅力でした。タージマハルのオチの付け方も達者です。ただドラマをやや勢いで走らせてしまい展開が多く感じたので、構成を意識してみるとより洗練されるかと思います。センスを信じて突き進んでください。次回作にも期待しております。
大森えす先生講評
勢いと熱量を備えた絵柄が、物語とマッチしていて、非常に魅力的な世界観でした。ハイスペックでストーカー気質の日野さんのキャラ造形や、恩義ある社長の着服事件といった要素の組み合わせも素晴らしいと思います。一方で、それらのピースをつなぐ流れがやや唐突に感じられる部分もありました。伏線を丁寧に張り、そして物語の要となるセリフを読者に印象づける工夫があると、より流れがスムーズになると思います。たとえば、P2「あなたが好みで…だからその、貢ぎたいんです」というセリフは、この後の展開で社長に目をつけられる重要なきっかけなので、もっと目立たせたいところです。1コマ目の「貢ぎたいので利息をあげてもらえませんか」も意表をつくセリフで大変面白いのですが、主人公が好きだから貢ぎたい、という趣旨をより強調した方が展開をつかみやすいと思いました。付随して、P5の社長のセリフ「ユウマ…頼む!担当してくれ!」は、主人公が日野さんに渋々付き合う動機になるセリフですが、現状では流れてしまっています。恩義を感じている社長からの言葉だからこそ断れない、という要素を序盤から強調することで、後半の「日野さんか社長か」を選択する場面がよりドラマチックになりそうです。
そして…オチが最高でした!

「アヒルのおねんね」ヤッカリンカレー
あらすじ
国立アヒル自然保護区で勤務する青年タナカは、子アヒルに先輩ヅラしたいアヒルさんの要望で、先輩らしい所作を教える事になったが――。
編集部講評
人類がアヒルのために生きる社会という発想が独創的で、冒頭から惹きつけられました。少ない線でしっかりキャラクターを描き分けられており、特にアヒルのフォルムのかわいらしさは魅力的でした。一方で、設定が突飛な分、人間関係の難しさを描くというテーマがやや伝わりづらく感じました。冒頭で物語の楽しみ方を分かりやすく読者に示すことを意識してみてください。次回作も期待しております。
大森えす先生講評
「アヒルらしさ」が凝縮されたフォルムが最高でした。またキャラの心情変化が作画タッチでも表現されていて、細やかな演出力に感銘を受けました。アヒルさん、タナカさん、ミトさんの三者が刺激し合って成長を遂げるラストもよかったです。
ただ、読者が能動的に行間を読み取りにいかねばならない場面が多いとも感じました。特に冒頭は、一風変わった世界の中で、特殊な状況から始まり、その中でも特殊なアヒルさんが出てきて…と、意外性が多くて楽しい反面、読者が把握しなくてはいけない情報が多いので、もう少し易しい言葉を増やしたり、アヒルの台詞と人間の台詞が明確に区別できるよう、アヒルさんの口調に特徴をつけたりするなど、読者が世界観を掴みやすくする工夫を施すとよいかもしれません。またP43、アヒルさんが先輩としての使命感をもつに至った具体的な背景がわかると、キャラの魅力がいっそう補強されると思いました。
- 「Life works」海月坂みつき
- 「ひろがる!!Kawaiiビッグバン!!!」兎張真守
- 「琥珀色に変わるまで」安寿アジュリ
- 「椿」蓮山暖
- 「悪魔狩り」絵まゆ


今回も少年ジャンプ+漫画賞へ沢山のご応募ありがとうございました。個性豊かな作品が集まった審査会となりました。あらゆる漫画賞において審査する側が重視しているのは、まとまっているかよりもその人の強みが見えているかどうかです。その点今回は将来その作家さんだけの武器となりうる個性が感じられました。武器は磨き、弱点は克服するか目立たなく小さくする。より磨かれた皆さんの次回作を楽しみにしています。
どの作品も冒頭から読者を引き込み、最後まで熱量を失わず、人の心を揺さぶる力を感じました。素晴らしい作品を読ませていただき、本当にありがとうございます。
最後に。
まだ作家歴の浅い自分が審査員を務めるのは光栄であり恐縮ですが、賞に応募していた頃の記憶が鮮明な立場だからこそ、その頃知っておきたかった3点を共有して総評と代えたいと思います。
・人は、自分の強みに無自覚であることが多いです。意識せず「当たり前にできること」こそが武器になったりします。日常の中で「自分は何気なくできて、他の人がそんなにやっていないこと」を探してみると、思わぬ強みが見つかるかもしれません。
・新人時代は漫画を描くのに膨大な時間がかかって不安になることも多いと思いますが、続けて描いていると必ず速くなります。大丈夫です。
・インプットが多ければ多いほど、オリジナリティは高まります。連載をもつと漫画を描く以外の時間が著しく減りますので、漫画や小説などのコンテンツだけでなく、今経験できる生活のすべてを大切な物語の種としてストックしてほしいです。
苦しいことも作品に昇華すれば誰かの心をほぐす力になり得る――そう思うと、漫画って本当に素敵な表現だと実感します。皆さんの作品がさらに多くの人の心を動かすことを祈っています!
100%の気持ちで応援しています。お互い頑張りましょう!
これまでの「少年ジャンプ+漫画賞」結果発表はこちら